決済代行会社「全東信」の破産から、10日ほどが経ちました。
加盟店だった飲食店が、未入金の売上や決済端末の停止で混乱している一方、まったく別の動きが業界で起きています。
全東信が抜けた穴を埋めようと、他の決済代行会社が一斉に営業攻勢をかけているのです。
全東信の加盟店は、ピーク時で20万店を超えていたとされます。
この規模の店舗が、ある日突然「決済手段がない状態」に置かれたわけです。
決済代行会社にとっては、これほどまとまった数の見込み客が一度に市場に出てくることは、そう頻繁にはありません。
01実際に何が起きているのか
- 大手決済代行会社が、全東信の利用店舗を対象にした特別相談窓口を開設
- 期間限定(2026年7月7日〜31日)で決済端末を無償提供するキャンペーンを展開
- 対面クレジットの手数料を1%台〜2%台前半という低水準に設定し、乗り換えのハードルを下げている
- 契約プランによっては、Amazonギフト券などの特典を用意しているケースもある
- 大手予約プラットフォーム系のサービスも、代替決済や請求書の立替払いサービスで支援に乗り出している
これだけ見ると、飲食店にとっては「助かる」という話に見えます。
実際、決済端末が使えないままでは営業に支障が出るので、多くの店舗にとって乗り換え自体は急務です。
ただ、ここで少し立ち止まって考えたいのは、「なぜ各社がここまで必死になっているのか」という部分です。
02なぜ、これほど激しい争奪戦になっているのか
答えは単純で、20万店という数字の大きさにあります。
通常、決済代行会社が新規の加盟店を1店舗ずつ開拓するには、営業コストも時間もかかります。
ところが今回は、すでに決済代行というサービスの必要性を理解していて、しかも今すぐ契約先を探している店舗が、一度に大量に市場へ出てきました。
決済代行という商売は、一度契約すると長期間にわたって手数料収入が入り続けるビジネスモデルです。
だからこそ、初期費用(端末代)を無料にしてでも、まず契約を取りに行く価値がある、という判断が働きます。
端末の無償提供やギフト券は、いわば「先行投資」というわけです。
03"無料乗り換え"に飛びつく前に、確認したいこと
前回の記事でも書きましたが、全東信の問題の本質は「早期入金サービス自体が悪い」のではなく、「加盟店から預かるお金の管理体制」にありました。
今回の乗り換え先を選ぶときも、同じ視点でのチェックが必要だと思います。
「1%台〜」という表示は、多くの場合、期間限定や特定プランでの最低水準です。キャンペーン終了後、通常の手数料がいくらになるのかを契約前に確認してください。
全東信の「週2回・月6回」という早期入金を前提に資金繰りを組んでいた店舗は、乗り換え先の入金サイクルが遅くなると、また同じような資金繰りの穴が生まれます。
前回の記事の教訓そのものですが、売上金がどう管理されているかは、契約書や公式情報で必ず確認したいポイントです。決済代行会社の預り金管理については、金融庁が資金決済法に基づく規制・監督を行っています。
混乱している状況では「早く決めたい」という気持ちが働きますが、可能であれば2〜3社を比較してから決める方が、長期的なリスクを減らせます。QRコード決済を、当面のつなぎとして併用するのも現実的な選択です。
資金調達という視点でも見ておきたいこと
今回の乗り換え先の中には、決済サービスとセットで、売上に応じた資金調達サービスや、請求書の立替払いサービスを提供しているところもあります。
これは、まさに全東信が担っていた「早期資金化」の機能を、別の形で引き継ぐ動きとも言えます。
便利な選択肢が増えること自体は良いことですが、こうした資金調達系のサービスを選ぶときも、当サイトで繰り返しお伝えしている視点、つまり「預り金の分別管理」「一社への依存を避ける」という基本は変わりません。
決済会社を選ぶ基準と、資金調達先を選ぶ基準は、実は同じところにあります。
05決済代行会社を比べるときの「比較表」をつくる
この記事は、2026年7月16日時点の動きをもとに書いたものです。以下は、2026年10月28日に追記した、乗り換えや新規契約のときに、いつでも使える比べ方です。キャンペーンの内容は変わりますが、比べる項目は変わりません。
契約前に、2〜3社から見積もりや条件を取り、次の項目を、表に書き出して比べてみてください。
| 比べる項目 | 確認すること |
|---|---|
| 決済手数料率 | カードの種類・決済方法ごとの料率。キャンペーン期間後の料率 |
| 入金サイクル | 締め日、入金日、月に何回入金されるか、休日の扱い |
| そのほかの費用 | 端末代、月額費用、振込手数料、解約時の費用 |
| 契約期間・解約条件 | 最低利用期間、違約金、解約の申出の期限 |
| 預り金の管理 | 売上金を、会社の運転資金と分けて管理しているか。契約書や公式情報で確認できるか |
| サポート | 障害時の連絡先、受付時間、対応のしかた |
説明のための仮定です。月のカード売上が300万円の場合、手数料率が2.0%なら月6万円、3.0%なら月9万円で、1年で36万円の差になります(300万円×1.0%×12か月)。入金サイクルが遅くなる場合は、その間の資金繰りも考える必要があります。「料率の安さ」と「入金の早さ」は、両方で比べてください。
乗り換えの手順
- 1. 現在の決済会社での、未入金の売上と、入金予定を確認し、記録する
- 2. 乗り換え先の候補2〜3社から、手数料・入金サイクル・費用の見積もりを取る
- 3. 契約書で、キャンペーン終了後の条件、解約条件、預り金の管理を確認する
- 4. 切り替えの期間は、QRコード決済や現金も併用して、売上の穴をつくらない
- 5. 切り替え後、最初の入金で、金額と入金日が見積もりと合っているか確認する
混乱している状況では、「早く決めたい」という気持ちが強くなります。ただ、契約書を読む時間をもらえない、契約を急かす、費用の説明があいまい、といった会社は、慎重に検討してください。
07未入金が出てしまったときの考え方
決済代行会社が破産するなど、売上の入金が止まった場合、未入金の売上をどう扱うかは、状況によって異なります。一般的な流れとして、破産手続では、裁判所が定めた期間内に、債権の種類や金額、発生の原因などを、裁判所に届け出る必要があるとされています(破産法第111条)。届出の期間や方法は、事件ごとに、裁判所や破産管財人から届く通知書に書かれています。
届出のための証拠書類として、売上の記録、入金予定の記録、契約書などが役立つ場合があります。日ごろから、売上と入金の記録を残しておいてください。個別の事情については、弁護士や、業界団体、公的な相談窓口に相談してください。
詳しい背景は、「全東信破産から学ぶ、資金繰りを一社に頼る怖さ」で説明しています。
08つなぎ資金が必要になったとき
乗り換えや入金の遅れで、一時的に資金が足りなくなる場合の選択肢です。
小規模事業者向けの融資制度があります。審査に時間がかかるため、早めに相談するのが基本です。条件は変更されることがあるため、公式サイトや窓口で確認してください。
手数料をかけずに、支払日を後ろにずらせる場合があります。取引先との関係や、取引量によって異なります。
法人向けの請求書など、売掛金がある場合は、選択肢になります。手数料がかかります。個人のお客様のカード売上は、対象外とする会社が多いため、相談時に確認してください。比較は「資金調達サービス比較ツール」で確認できます。
よくある質問
期間限定のことが多く、終了後は、通常の手数料になる場合があります。期間と、終了後の料率を、契約前に確認してください。
1社が止まると、売上の入金も止まります。可能であれば、QRコード決済や現金など、別の手段を併用して、依存を分散しておくと安心です。
一概には言えません。手数料が低い場合もあります。自分の資金繰り(支払日と入金日)に、無理がないかを、基準に選んでください。
契約書や、会社の公式情報で、売上金の管理方法の説明があるかを確認します。決済代行会社の規制・監督は、資金決済法などに基づき、金融庁が行っています。不明な点は、会社に問い合わせてください。
まとめ
全東信の破産は、決済代行業界に大きな空白を生み、それを埋めようとする争奪戦を引き起こしています。
飲食店にとっては、乗り換え自体は避けられない状況ですが、「無料」「特典」という言葉だけで決めてしまうのはリスクがあります。
手数料、入金サイクル、資金の管理体制。この3点を確認する習慣を持つことが、次に同じような事態が起きたときの備えにもなります。
本記事は2026年7月16日時点で報道・公表されている情報をもとに構成しています。各社のキャンペーン内容・手数料は変更される可能性があるため、実際の契約前には各社の最新の公式情報をご確認ください。